『防衛の計量経済分析』水野勝之,安藤詩緒,安藤潤,井草剛,竹田英司, 五弦舎,p.143(2020年4月25日)刊行
- 経済教育研究センター事務局

- 2020年4月25日
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更新日:2021年11月29日
本書は、著者代表が編著の「林業の計量経済分析」とシリーズ化させた書である。計量経済学者H.タイルのシステム―ワイド・アプローチというディファレンシャル需要方程式モデルを基に、数々の改良を加えた我々のモデルを使用した計量経済分析のシリーズである。
さて、本書についてである。防衛の計量経済分析の書はあるようであまりない。マクロ経済データでの分析は存在するが、防衛産業のミクロ経済学的分析は少ない。なぜか。データに制約があるからである。2016年12月の国民経済計算の基準改定以前、防衛産業の取引の数値は産業連関表の中にインプリシット(陰表的)に入っていた。中間取引の公務の項の中に隠れていた。そのため、防衛産業の統計は限られており本格的計量経済分析が難しかった。
本書の積極的な試みのひとつは、産業連関表の中から防衛統計を陽表化させたことである。経済分析をする際、統計は限られている。一例をあげれば、工業統計を使いたくても、小さな市町村のレベルになると、統計が不連続になり、計量経済分析ができない。逆の大きくても困る。1990年代京都大学の環太平洋計量経済モデルが作成されたが、各国の資本ストックのデータがなくてどんなに苦労したことであろうか。こうしたデータの不足や不連続性は計量経済学の発展を妨げる。そこで、本書では産業連関表から防衛産業を明示化し、防衛の計量経済分析ができるよう、新たな産業連関表を作った。不足した経済統計のデータの陽表化の試みは、批判も受けるところでもあるが、計量経済学を一歩でも、いや半歩でも前進させるのに必要であると考えている。計量経済学を少しでも発展させたい思いを持っている。
他の試みとしては、効用理論を防衛の分析に応用したことである。効用を社会的厚生としてとらえるモデルはよくある。ここでは、為政者の判断によって防衛は変わってくる。したがって、為政者の判断を効用として計測し分析する試みを行った。現代の防衛についてだけではなく、第1次大戦と第2次大戦間の同様の分析も行った。その計量経済史の分析では、歴史学的ではなく、数量分析面から日本が戦争に突入することを防ぐ機会があったことを明示できた。
本書には他にも新たな試みが多数ある。それらについては各省に明記してあるので見られたい。



